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イレギュラーアースでお茶しませんか?
―― 魔女の回転予報官シリーズ 4 「チャンバラ編」 ――

第1話 復活の日




 式が、戻ってこなかった。

 最初、なにか間違いが発生した可能性を考えたものの、今となっては、もう認めざるをえなかった。
 式が、自分のコントロールを、自ら振り切ったのである。
「……」
 信じられぬ事態であった。が、十分に考えられる事態でもあった。
 なんとならば──
 あの、式は、あの──
 蘇我秀麿を、モデルにしたものだったからである。
「チッ……」
 男は一つ舌打つと、事態収拾のため、歩き始める。
「さすがは、わが師匠殿の……」
 苛立たしくつぶやきをもらす。
「性格 <キャラクター> の、コピーよ……」

 やがて、男の姿は、闇夜に紛れはじめ──
 もう一度舌打ちが聞こえ──完全に、消え去った。












 宇宙人でも来てくれないものか──

 没落した名家、カザンザーキス家にただ一人残された少女、ジャンヌは、本気でそう考えていた。
 今は使用人もいなくなった、寂しいばかりのだだっ広い屋敷。その中の十畳ほどの広さの居間で、畳の上に座り、卓の鏡に向かって、彼女は肩まで伸びたプラ チナの髪の毛を機械的に梳 <くしけず> っている。そのワイン色の瞳が見つめるものは、しゃれたブラウス姿の、今年15歳になるおのれの美貌なんかではない。胸にわだかまる、灰色の想いだった。

 ジャンヌ・ダルク・カザンザーキス──四級魔女。

 この歳で四級とは、少し恥ずかしいことである。はっきり、能なしと言われても返す言葉がない。普通ならクビを切られてなんの不思議もなかった。
 師匠は、実母だった。実母だからこそ、そして名家であったからこそ、もう一つ付け加えるならばまれに見る美少女だったからこそ、一人娘の彼女は、なかば アイドルキャラクターとして、この世界に生かせてもらえていたのである。(これは自分でも、イヤと言うほど自覚していたことだ。)
 それが──
 いまや、名家の名は地に落ちた。
 正回転予報官だった一級位の母が、災害を予期できず死んでしまったのだ。
 いや、死んだのは母だけではなかった。たくましい父も、甘やかしてくれた婆──特一級位──も、意地悪ばかりだったけどたまにやさしかった兄も、生意気盛りだったかわいい弟も──ようするに彼女を残して一家全員、いっぺんに死んでしまったのだ。

 災害──シガラ山の大噴火で、だ。

 彼女一人残し、一家はキキン地方へ湯治旅行に出かけた。セキハラを越えて、ピュアで遊び、大都会オサカで羽目を外す。音に聞こえたツルガッツの潜水艦に も乗った。心をはやらせて陸路を行けば、目的地、なつかしやウジの“本家”である。ウジの茶摘み祭りに間に合うように到着して、そしてそこが人生の終点と もなってしまったのだった。
 ジャンヌを一人留守番として残したのは、自助努力を促す師母としての深謀遠慮があったのだろう。行く者残る者双方に、一抹の不安、心配はあった。が、遊びたい盛りの彼女にしてみれば、隠してはいたが、逆に歓迎の気持ちの方が、大きかったと言っていい。
 酷な言い方をすれば、それがあだになった。一族全滅であれば、あるいは──家の名誉は──
「……」
 ジャンヌは空しく静かに首を振る。考えてもしょうがないことだ。
「……」
 ウジ消滅……誰も予報できなかった悲劇。その土地の魔女でさえ、予知できなかった……はずだ。予知できていたら、何人かは助かった人がいてるはずだから。
 だが、世間はそう受け取らない。
 そればかりか──風の噂では、 <傍点> 災害をはっきりと予報し、町人たちに避難を勧告した魔女が存在した</傍点> という 。
「嘘だ!」
 そんなのぜったい嘘に決まってる。それが証拠に、いまだもって、「それは私のこと」と名乗り出た魔女はいない。こういうとき魔女というものは正直で、なんであれ名を売るチャンスはとことん利用する生き物なのだ。
 だから、嘘。そんな噂をする人は、無責任におもしろがっているだけなのだ。

 だが、今となっては、彼女にどうかできる力はない。

 せめて、もっと階級が上だったら。一生懸命修行して、魔力を確かなものにしていたら、状況は違っていただろうに──
 ──と、誰もが後悔することを後悔するのみ。
 ジャンヌは涙をにじませた。
 それは悔恨の涙ではない。
 悲しみの涙ですらない。
 つい先ほど、「慰めてあげます」と無理矢理家に押し入ろうとした破廉恥漢を、拙い魔力でようやく退けた、そのくやし涙なのだった。

 彼女の現状はきびしい。
 回転予報官の役目は、すでに他人(二級魔女)に渡った。一度だけ会見したが、もろに見下す態度に、弟子入りという甘い考えは自分から進んで放棄した。
 いまさら他の職業につけないし、ついたとしても、そこでどんな目で見られることやら。そんなのまったくごめんだった。
 いまは残された財産を崩し、食いつないでいるだけ。
 このお金がつきたときが、自分の終わりなんである。そう決めている。
 このあいだちょっと計算してみたが、その終わりの日が来るのは、そう遠くない未来となった。そこで、自分の人生はジ・エンド。あんがい早かったのね、わたしってなんだったんだろ、ともはやハハハと笑うのみだ。

 宇宙人でも現れてくれないものかしら。そして自分は何であるかを教えてくれて、魔力を与えてくれて、そしてたくさんのお金をくれて、助けてくれるのだ。

「あはははははっ」

 あまりのバカバカしさと情けなさに、本当に声に出して笑ってしまった。
 涙を流しながら。

 ジャンヌはしゃくりあげながら、両手を組んだ。そして──

 そして──

 ──そして、 <傍点> 奇妙なこと </傍点> を、し始めたのだ。

「われらが全能なる父たる御仏様よ……貴方のしもべ、か弱きわたくしめをどうか慈悲のもとにお導き下されまし……南無」

  <傍点> 鏡に向かって </傍点> 、祈りを捧げ始めたのである。

 鏡に向かって祈りを捧げる──魔女???

 だがその祈りは真剣なもので──

 だからこそ──












 だからこそ──

「その願い、叶えようか?」

 ──ジャンヌ、腰を抜かすほど驚いたのだった。確実に寿命が縮んだと断言できる──!

 落ち着いた、しかしどこかおもしろがっている、男性の声。

 まさかさっきの破廉恥野郎が──

 鳥肌が立つ嫌悪感と恐怖で弾けるように振り向いたその先に、一人の見知らぬ年寄りが、のーんびりと突っ立っていたのだった。
 見上げると、白い獅子髪の、老人だった。浅黄色の、『水干』という今ではとても珍しい服装をしている。
「あんた誰──!」
 いきなり気づいた。この爺さん、人間じゃない。
「思念体……」
「ほう?」
 老人は満足そうに一つ頷く。
「わざと隙を見せてやったからできたのだろうが、やはり腐っても鯛、といったところか。さすがはカザンザーキス家の総領。よくぞ見抜いた。感心、感心……」
 もろ無礼な物言いだが、今は気がそこまで回らない彼女だ。
「あんた誰? 誰の形代 <かたしろ> なのよ?」
「名乗ろう。儂は蘇我秀麿 <そがのひでまろ> 。陰陽師よ。こんな存在だが、独立した意識体じゃよ。つまりこれでもちゃんとした一個の人格なのじゃ」
「そんなことって……ありなの?」
「ありじゃよ、お嬢ちゃん。 <傍点> 儂だから </傍点> できることじゃ」
「陰陽師、てなに?」
 老人は、どっこらしょ、と口に出して畳に座った。
「とりあえず、“超級魔男”とイメージしてくれたらよいであろうよ」
 そう歯切れ良く答えると、老人──秀麿は、ニイッと笑顔を見せたのだった。












 二人のやりとりはさらに続く。
「さっき、わたしの願いを叶えてくれる、と言ったわね?」
「ゆうた。安心しろ、タダで、とは言わん。ちゃんと代価をいただく」
「なーんだ。やっぱりカネを取る気なんだ」
「タダだったら、お前でもさすがに警戒するだろうが」
「いくらで、なにをしてくれるの?」
「なにしろ儂はこのとおりのあやふやな存在だからな。儂と共に行動し、仕事を手伝ってくれたらありがたい」
「仕事って?」
「儂はこの地球の、全世界の王様、皇帝になろうと思っている」
「アハハハハ! お爺ちゃんサイコー!」
「お前、死ぬつもりだったんだろ?」
「──」
「どうせ死ぬんだろ?」
「──」
「悔しくないのか?」
「──」
「見返してやりたいとは思わぬか?」
「──思う」
「超魔女以上の力がほしいとは思わぬか?」
「思う」
「お金はあればあるほどいいよな?」
「そう思う」
「お前、儂は大好きじゃ」
「きしょく悪いこと言うなよ」
「じゃあ、儂と契約しようよ」
「──」
「お前の弱みを知ってるよ」
「──」
「鏡に向かって祈っておったろ?」
「!」
「儂は知ってるよ。それは太古の技術で作られた、“魔鏡”というものだ」
「……」
「光をある角度で当ててやると、反射光が映像を形作る。──おそらく、御仏のお姿とにらんだが、どうじゃ?」
「──」
「だんまりは、認めた証拠、と太古から言われていることじゃ」
「チクる気?」
「今、世界の各国は、世界政府によって、実に緩やかに統一されておる。民にとっては理想の世の中じゃ。平和な政府と言えるだろう。すばらしい。理想的な、非の打ち所のない、立派な支配組織じゃな」
「それが……?」
「つまり、裏を返せば、数少ない禁忌に触れた者に対しては、苛烈、ということじゃ」
「──!」
「“最終戦争”後、仏教は、異端じゃ。仏道に帰依することは禁じられている」
「帰依なんかしていません。マジで。さっき祈っていたのは、ただの習わしです。……うちに代々伝わった、たんなる伝統、文化的行事です」
「それが異端審問の場で、通用するかな?」
「じっさい、事実、そうなのよ? 鏡を割れって言われたら、なんの躊躇もなく割れるし、踏みつけろ、と言われたら、喜んでとんだり跳ねたりしてみせるわ。わたしの宗教心たら、そんなものよ。──審問なんて、ぜんぜん怖くない」
「お前は、笑顔で踏みにじるだろうが、心では泣いているだろうよ」
「あははのは! 苦し紛れね! 勝手にほざけ」
「仏様はいるよ。お前の心の中に」
「うるさい!」
「事実、存在するんだ。その“魔鏡”の作り主たちが、 <傍点> ほんとうに作ったんだから </傍点> 」
「……はぁ?」
「御仏は今、千年の眠りについている。だから、いくら祈ったって、今はその祈りは届かない。長き眠りから目覚めさせてあげんと、な」
「話についていけない」
「仏様、大好きじゃろ?」
「大好きだよ……。お婆ちゃんが、こっそりと、たくさんお話ししてくれた」
「目出度くもあり、目出度くも無し?」
「わぁ、一休さんだ!」
「……ほんとに、好きなんだな」
「大好き!」
「ついでに、お金と権力も大好きじゃろ?」
「ウフフ……超大好き」
「お前、儂は大好きじゃ」
「なんだかわたしもお爺ちゃんが好きになってきたよ」
「うふふ」
「うふふ」
 うふふふふふふ……。











「で、さっそくだけど、わたしは何をしたらいいの?」
 秀麿はニイと笑うと、どこからか、朱鞘の二尺少しの長さの、一振りの刀を取り出した。ジャンヌに差し出す。
「太古刀! ……いまでは存在するだけでどんなものでも国宝級、ということくらい、わたしでも知ってる。本物なの?」
「もちろんもちろん。状態も申し分なし。無銘だがよい品物よ……。教えるが、この刀のもとの持ち主は、天草四郎、というお方でな。今のお前と似たような境遇の人じゃった」
 しゃんと正座した。小刻みにふるえる両手でその刀を受け取る。
「軽い……」
「ほんとは約1kgはあるんじゃぞ。だがそれじゃお前、まともに振り回せまい。だから、ズルして魔法で軽くした」
 ジャンヌは鞘から刀身をそろりと抜いてみる。とたん、虹のような光彩が刃から放たれ──
 魅入られた。
 ジャンヌ、体の震えがとまらない──
「“はごろも”と名づけたい……」
「よかろう。よき名前じゃ。そして、その持ち主にふさわしい技量も習得するのじゃな。めざすは、サムライ女王 <クイーン> じゃ」
 きょとん、として老人を見た。
「うっかりしてたけど……ねえ、なんで刀なの? なんでわたしがチャンバラしないといけないの? この展開、唐突すぎやしない?」
 すると秀麿爺さん、いかにもばつが悪そうに、体を縮ませたのだった。
「二つ、理由がある。
 一つは、太古の偉大な魔術師、山田・F・太郎先生の伝説の仕事、『魔界転生』術の真似事を、一度してみたかったから。
 もう一つは、儂らの対抗勢力の大将が、魔法剣士なんであるから、じゃ」
「一番目はとりあえずわたしには興味ないことね。でも二番目は聞き捨てならないわ。対抗勢力って、世界政府のこと?」
「いや、ただの一人の男だ。今、そやつは中途半端な立場にある。だから、なんとも言えんが、とにかくそう遠くない未来において、最大の障害となるのは必定だな」
「強いんだ」
「シャレにならんほど、強い。魔法も、剣も」
「わたし、どっちもだめっピーだよ?」
「まかせときんしゃい。そのための『魔界転生』術なんじゃぞ」
「──」
「納得したか? 心は決まったか?」
「その術って、痛くない?」
「アホか! お前をいじくる術ではないわ」
「最後に」
「なんじゃ?」
「なんで <傍点> わたし </傍点> だったの? なんでわたしを選んだの?」
 秀麿、つと言葉に詰まり……やがて、心底からの優しさとともに語ったのだった。
「お前を発見したときの儂の喜びと興奮を、想像もできまいよ……。第一条件が“異端者”で、第二条件が“魔女”。これだけで絶望的だったのに、それなのに お前は、その上で <傍点> あのカザンザーキスの娘 </傍点> だったからだ。これほどお膳立てが整った、都合の良い娘がほかにおるものか! お前を見つけたとき、儂は思わず <傍点> 本物の神仏 </傍点> に、感謝の祈りを捧げてしまったほどじゃ。ああ、よくぞ、存在していてくれたなぁ……」
「やっぱり話が見えないけど、わたしが生きていてよかったね。じゃ、さっそくやろうよ。その、『魔界転生』術ちゅーのを」
「うん……」
 ここで秀麿、なんと頬を赤らめたのだった!
「いざ、やるとなると、ちと、恥ずかしいのう……」
「なに言ってんだか!」
 やるわい、と一言叫び、秀麿、正座になる。これまたどこからか四枚の人形 <ひとかた> に切られた白い紙を手に持った。
 人差し指だけ真っ直ぐにしたまま両手を組み合わせ、その人差し指で四枚の紙をはさみ、異様な呪文を唱え始める。

「エロイム エッサム エロイム エッサム──我は求め訴えたり」

「エロイム エッサム エロイム エッサム──我は求め訴えたり」

「エロイム エッサム エロイム エッサム──我は求め訴えたり」

「エロイム エッサム エロイム エッサム──我は求め訴えたり」

 ジャンヌ、いままで体験したことない、魔女のものとは異質の力の波動を感覚し、おもわず後ずさり──

 ハッ、と気づいたそのとき、秀麿のその形代 <かたしろ> の四枚の白紙が、消滅していて。
 そして──

「ピンポン……」

 というドアチャイムの音──

 ジャンヌの顔から血の気がひいた。絶えてなかった、おとない人の、合図であった──

「かまわん。入ってこい」

 秀麿が勝手に指図する。だがここは屋敷の居間で、玄関は遠くにあり、そんな声は届くはずもなく──だが──

 だが──

 何者かがやって来る気配がする。存在感がある。

 数人の──はっきりと、廊下を歩く、スリッパの音がしていてる!
「──!」

 居間の襖の向こうでその気配が足止まり──

 秀麿が、ニッ、と笑ったのだった。












 秀麿が立ち上がった。襖に歩き、こちらを振り向く。ほほえみを絶やさず──

 後ろ手で襖の取っ手に触れ、するすると開き始める。

 そこに……。

 四人の、黒系統の色の、キモノ、ハカマ姿の──

 左腰に大刀小刀をぶちこんだ、つまり、太古の世界で“武士”と呼ばれた者たちが──

“兵法者”と呼ばれた存在が──

 ジャンヌ──

 目の前がくらくらとなり、まるで夢幻の空間に迷い込んだような──

「紹介しよう!」

 秀麿の声が頭にカンと響き、ジャンヌは正気を取り戻す。目の前に、横並びした侍たちが立っていた。
 秀麿が一番右端に立ち、まるでバイト先で新人を紹介するように、男たちに声をかける。
「名前を呼ばれたら、一歩前に出るように」
 了解した、と軽く頭を下げる、武士たちだ。

「林崎流抜刀術、林崎甚助」

 すぐ隣の男が一歩前。この四人の中では一番小柄だった。誤解してはいけない、つまり、世間並みの背の高さ、ということだ。顔に愛嬌があって、どこか可愛げのある人だった。秀麿が簡単に紹介する。
「この中では……というか、居合では歴史上の誰よりも速い」
「よろしゅうね <ハート> 」
 やはり愛嬌ある笑顔だった。

「示現流、東郷藤兵衛」

 その隣の、まるでグリズリーみたいな大男が一歩前。重量級の戦士であった。むんっ、とでも表現しようのない顔をしている。この人が静かに怒ったら、それはそれは怖いであろうと思われた。
「打ち込ませれば誰よりも速い」
「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ……」
 重々しく頭を下げる。たまらずぴしっと礼を返したジャンヌだった。

「柳生新陰流、柳生十兵衛」

 その隣の、左目に鍔の眼帯をした、ちょっとかっこういいオジサマが一歩前。あごひげをポツポツとはやし、左手でそのあごをさすってる。右手は懐につっこんだままだ。右目をやわらかく形づくらせ、ニカッとさわやかな歯並びの笑顔になった。
「この男、戦わせたら、誰よりも強いぞ」
「オウ、頼むわ……」
 ジャンヌ、なんと頬を染めてしまったものである。
 
「二天一流、宮本武蔵」

 最後の一人が一歩前。蓬髪の男だった。ちょっと居心地わるそうにしている。これは想像だが、たぶん、 <傍点> 今この世に生まれ出たばかりだから、衣服がまっさらで清潔だから </傍点> 、それが気になっているのだろう。なんとなく、身だしなみに無頓着な人のように思えたのだ。顔は、少し骨張っていて、それでいつも怒っているような感じ で、これは社交は苦手な人なんだろうな、と思えたのだった。
「言わずと知れた二刀流で、これはもはや反則的に強い」
「ん、……なんだ、その、ま……」
 いきなりペコリと低頭したのだ。おもわず笑みがこぼれてしまったジャンヌだった。こんど、いっしょにお風呂に入ろうか、と言ってみようか? どんなリアクションするだろう!

「以上四人 <よったり> ──」
 秀麿が言う。
「──お前の剣術のコーチ、兼、ボディガードじゃ。この屋敷が広いのは幸いじゃった。稽古の場所に困らん。ま、当分の間、しごいてもらうんじゃな」
「へーい……」
「返事は、はい、じゃ」
「はーいはーいはーい……」
「まったく近頃の娘っ子といったら……」
 ぶつぶつと文句をたれる老人であった。

(宇宙人様……)
 その背中にあだ名を奉る。

 彼女は腰を上げた。みんなにお茶でも淹れてあげよう。そうだ、たしかトラヤの羊羹も残っていたはずだ。
「──♪」

 ジャンヌ・ダルク・カザンザーキス。目の前が、急に広々と開かれた思いだった。
(なんだかおもしろくなってきた!)
 胸の中が、希望の光でいっぱいだった。











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